ドルは過去1年間で大きく下落しましたが、足元でもトランプ大統領の輸入関税発言により、世界的な貿易戦争勃発の懸念が芽生え、下げが一段ときつくなっております。

この 動きからドルの準備通貨としての支配的な地位が揺らぎつつあるのではないかとの見方が再燃しています。

このドル安の背景には、米連邦準備理事会(FRB)が直近で計3回利上げをする程の米国よりも欧州や中国の方が成長ペースが勝っているという事実があります。
そんな中でもトランプ氏は、最近の株価上昇は自身の指導力の賜物だと主張します。しかしながら、ドル建てで見ますと、同氏の就任以降、中国、フランス、シンガポールの株式市場に投資するファンドの収益率は米国株よりも上回っているのが実態です。
本来であれば、欧州よりも政策金利が高く、尚且つ昨年12月に法令化された減税は米国投資の魅力を高め、企業の海外資産が米国に還流するなど、ドルは上昇するのが自然なはずです。

にも関わらず外為市場においては、国際投資家は米国よりも欧州や新興国市場への投資を積極的に行っている様子が見受けられます。
ドル安が続いている理由は、減税とインフラ投資等による支出拡大により、10月から始まる新年度の米財政赤字は1兆ドルを超える見通しとなっているからです。
また、 中央銀行の利上げが続く中、金利が上昇していますが、さらなるドル安が見られない限りは わずかな金目当てで米国債投資に魅力を感じにくいのも頷けます。

加えて、政策は二転三転し、トランプ氏と側近との関係は不透明感が漂い、尚且つドルの基軸通貨としての価値が揺らいでいるとなれば、米経済に対する投資家の信認は維持されにくいでしょう。
既に警戒すべき予兆も見られます。といいますのも、ドル建て資産保有で1、2位である中国と日本が米国債保有に対して消極的な態度を見せ始めています。
その証拠に、両国の米国債保有残高は中国では昨年8月より横ばいが続き、日本は今年に入り2011年12月以来の水準 に落ち込みました。
それでもドルは世界の外貨準備で未だに圧倒的なシェアを持ち、支配的な立場にありますが、この先の将来を見据え た時に、中国の世界への影響力が増し、米国の絶対的な強さが弱まりつつあるのは、正にトランプ氏に突き付けられた成績表そのものといえるのではないでしょうか。

覇権国争いの過渡期にある現在、既に次なるステージに舵 が切られています。